どうも、ゴトーだ。

俺は三度の飯より陸上が好きでな。
これでも長距離ランナーのはしくれとして生きてきた過去がある。
今回はLT値という観点から長距離のタイムを伸ばしたり、持久力をつける方法について紹介したい。
代謝についてよく知ることでより良いトレーニング方法が分かるはずだ。
運動と代謝の関係

少し回りくどくなるが、LT値を知るためには人間の代謝について説明した方が良いと考えたので、まずは代謝について説明しよう。
代謝というのは端的にいうと、人間が体内に貯蓄してあるエネルギー源(脂肪とか糖質とか)を使って、エネルギーを生み出すことだ。
人間が普通に生命活動をしているだけでも、この代謝を使ってエネルギーを生み出しているし、運動するとより代謝が活発になってエネルギーを消費する。
運動すれば痩せるというのは、要は運動するのに必要な代謝が働いてくれて、その過程で体内にある脂肪などが代謝に利用されて痩せるということだ。
(厳密に言うとそれだけではないのだが、主たる要因ではある)
誰もが感覚的に分かると思うが、緩い運動なら長時間続けられても、激しい運動は長時間続けることができない。
そして激しい運動を行うと、息がゼーゼーしてきて体がしんどくなってくる。
これも代謝から説明することができる。
そもそも運動とは何か
そもそも運動とは何ぞや、というとおそらく普通の人にはピンと来ないと思うが、基本的には筋肉の収縮の繰り返しだ。
全身の筋肉を動作に応じて伸ばしたり縮ませたりしながら、効率的に動作することで高いパフォーマンスを得ることができる。
もっとも、一つ一つの筋肉を意識してたら動きがギクシャクしちゃって逆効果だから、そんなことを意識したことがないというのが多くの見解だろう。
そして筋肉の収縮するためには、「ATPという体内の化合物をADPとリン酸に分解する時に生まれるエネルギー」を利用する。
一気に難しくなってしまったが、要はATPというものによる代謝がなければ人間は運動することができないということ。
ではなぜそんな話をするのかというと、「ATPからエネルギーを作ることが難しくなる状況が、激しい運動=ゼーゼー言うような運動」となるからだ。
だから代謝という点だけで言えば、”ATPを効率的に生み出せる人がスタミナ・持久力に優れている”ということになる。
もちろん実際には、ランニングではいえば走効率だったり、身体的な特徴でスピードが変わってくるから、これが優れていれば必ずしもタイムが早いわけではない。
ATP生成における3つの経路

運動は筋肉の収縮によって成り立ち、それにはATPというものを分解した時に生まれるエネルギーが使用される。
しかしそのATPは体内にほんのちょびっとしか貯蔵されていないので、運動していればその間にずっと生成していなかければならない。
疲れて運動できないというのは、ATPをもう生成できねえよ…という状況と置き換えることができる。
そしてATPを生成するには3つの経路があり、これがいわゆる「有酸素運動」「無酸素運動」に分類につながる。
簡単に分けると以下のようになる。
タイプ | 特徴 | 持続時間 | 分類 |
---|---|---|---|
リン酸系 | すぐATPになる | すぐなくなる | 無酸素運動 |
解糖系 | ATP生成効率が良い | あまり持たない | 無酸素運動 |
有酸素系 | 効率は悪い | かなり持つ | 有酸素運動 |
まずリン酸系は10秒くらいしか持続しなくて、100m走などでは主に利用されるが、これは今回関係ないので省略する。
解糖系と有酸素系は今回のテーマに関わってくるので詳しく説明しよう。
解糖系と有酸素系
まず解糖系と有酸素系がなぜ「無酸素運動と有酸素運動」と分類されるのかというと、解糖系はATP生成するのに酸素が必要ではなく、有酸素系は酸素を取り込まなければ生成できないためだ。
解糖系とは、体内にあるグリコーゲンがグルコースやビルピン酸を経て乳酸に変わる過程でATPを得ることを指す。
専門用語ばかり並んで訳がわからないと思うが、これは要するに体内の糖質を分解してエネルギーを得るための一連の過程で、この代謝が行われると有名な「乳酸」が発生する。
よく乳酸が疲労物質かのように忌み嫌われているが、乳酸は悪役どころか味方なので勘違いしていないでほしい。
解糖系がバンバン働くと乳酸がたくさん生み出されるが、バンバン働いている状況こそが疲れの原因で、乳酸自体が疲れをもたらすものではない。
有酸素系は、グリコーゲンや脂肪などから酸素を用いてミトコンドリア内でATPを生成するものを指す。
これもかなり分かりにくいが、要するに体内にある脂肪などを酸素を使って消費するもので、エネルギー生成する速度は遅いけど、潤沢な脂肪を利用することができてたくさんのATPを生成できるから長続きしやすいという特徴がある。
有酸素系が優位でないと運動は続かない
ここで一つ重要な点として「マラソンのような長時間行う競技では有酸素系が優位に働いて、解糖系はなるべく引っ込んでてもらわないとダメ」だということだ。
簡単な例えとして、強度120の運動を行ったとして、有酸素系で100しか補えないとすると、残り20を解糖系で賄わないといけない。
この「20」が借金のように、運動を続ければ続けるほど雪だるま式に積もってきて、やがて息がゼーゼーしてきて、ペースも落ちてきて、やがて倒れ込んでしまう。
しかし有酸素系の能力が向上して120まで補えるようになると、解糖系が働かなくてもその運動を持続できるので、息がゼーゼーすることなく、またペースを保ったまま1時間でも2時間でも持続することができるようになる。
これがいわゆる「スタミナ・持久力」とされるものだ。
(実際にはここまでキレイに分担されるわけではないのだが、あくまで思考実験として捉えて欲しい。)
解糖系というのは、有酸素系だけで賄えないものに対して助っ人として参加するイメージで、こいつがなるべく介入しないほど運動が長続きする。
この考えがLT値(AT値)という本題にようやくつながってくる。
なぜ息がゼーゼーするのか

LT値の話に入りそうなところで、少し話の腰を追ってしまうが、これだけだとなぜ”激しい運動で息がゼーゼー”するのか理解しづらいと思うので補足したい。
結論から言うと、ゼーゼーするのは解糖系が「もう無理っす。有酸素系だけで頑張ってくれ。」というシグナルのようなものだ。
先ほどの例えを流用すると、強度120の運動を行っていて、有酸素系が100、解糖系が20を賄っていたとする。
この「20」は最初の方は「ちょっときついかな」くらいなのが、運動を続けるほどゼーハーしながら辛くなってくる。
上の方でちょろっと説明したように、解糖系はATP生成効率は良いけど長続きしないものだ。
どれだけ長続きするかはトレーニングによって鍛えられるのだが、仮にキャパシティを「100」として、1分で「20」ずつ解糖系による負債が増えていくとすると5分でキャパシティいっぱいになって解糖系が根をあげてしまう。
すると有酸素系だけで何とかしてもらわなければならず、有酸素系をバンバン働かせようと、体内がやたらと酸素を欲しがるようになる。
その酸素が欲しがっている状態がゼーゼーしてる状態ということだ。
これは人間の反射として刻みこまれているもので、仮にゼーゼーしないと自分がどれだけ酸素を欲しがっているかなんて人間は察知することができないから、ゼーゼー言っているのは悪いことではなく、そうしないと運動が続けられないことの裏返しでもある。
LT値(AT値)とは何か

ようやくLT値の説明に入る。
ここまで理解していれば、もうほとんど結論が出ているので尻すぼみのようになってしまうが。
LT値というのは「乳酸性作業閾値」あるいは「無酸素性作業閾値」と呼ばれるもので、ここを超えたら一気に乳酸が溜まっていきますよというポイントのことだ。
先ほどと同じような例を使うと、100の有酸素系能力を持っている人が、80の強度の運動をしても乳酸が溜まっていくことはない。しかし100を超えると乳酸が急激に溜まりはじめてしまい、やがて運動を続けることができなくなってしまう。
この場合、「LT値(乳酸性作業閾値)は100の強度」と見なすことができる。
つまりLT値とは運動強度のことだ。
ちなみにLT値とAT値、同じ意味だが本やブログなどによって統一されていないので厄介だ。
LT値は乳酸性作業閾値の略称、AT値は無酸素性作業閾値の略称だが、そこまで深く覚える必要はない。
LT値は明確に存在する
乳酸がたまり始めるポイントは本当に存在するのか、と疑問に思うかもしれないが、以下のグラフを見て欲しい。
これは横軸が運動強度、縦軸が血中乳酸濃度を表したものだ。
(引用: http://pioneer-cyclesports.com/jp/contents/specialist/kakinoki01.html)
これを見て分かる通り、ある地点をすぎると急激に乳酸がたまり始める。
体感的には走っていて、あるペースになると「これ以上早くなったらマズイ」と思い始めるポイントが大体LT値で、それよりゆっくりなら1時間でも走り続けられるのが、それより早くなると途端に数十分と持たなくなったりする。
つまり長距離を一定のペースで走るにはこのLT値より低い箇所で走らなければならないが、このLT値はトレーニングによって上げることができる。
簡単に言ってしまうと、長距離トレーニングの一つのテーマはこのLT値をいかに上げるかとも言えるだろう。
余談: 先ほどの例は厳密には間違い
これは余談なので頭がパンクしそうな人は読み飛ばして欲しい。
全然余裕だぜ、という人は読んでもらえれば幸いだ。
先ほどの例というのは「強度120、有酸素系100、解糖系20で、借金のように20が溜まる」というものだ。
これだけ見るとあたかも解糖系が働くと、それがそのまま疲労として残るように感じられるが、実際は多少働いても問題ない。
解糖系が負債という例えはそのまま使わせてもらうと、運動中でも解糖系による負債は同時並行でせっせと返済してくれているからだ。
この借金返済能力が「無酸素性持久力」というもので、これもトレーニングによって伸ばすことができる。
仮に解糖系が20働いていても、借金返済能力が20あれば実はそれほど問題ではない。
しかしこの借金返済能力はかなり限界があって、凡人が10だとしたらトップアスリートでも20くらいしかなくて、しかも2ヶ月位激しいトレーニングをすれば凡人でもすぐに20近くまで増やすことができる。
要はトレーニングによる上がり幅が小さいから、持久力を鍛えるには有酸素系の能力を伸ばしたほうが効率的だということになる。
競技者の場合、この無酸素性の持久力は週に1回のインターバル走とか、大会前の追い込みとかで伸ばせばさほど問題にならない。
LT値の効率的な上げ方
これ自体が長距離トレーニングそのものになってしまうのでハッキリ言って答えはないし、より正しいものを追求したら膨大な分量になってしまう。
ただ自分の経験上、あまり熟練していないランナーや他競技の人がやってなさそうないくつかのポイントを挙げていこう。
LT値付近かそれよりも低いペースで走る

最も良く言われているのが、「LT値付近かそれよりも低いくらいの強度で、できるだけ長い時間走り続ける」というものだ。
LT値がわからないという人も多いと思うが、実感値としては「これ以上早くしたら長時間持たない」地点。それなりにキツいポイントでもある。
そのペースでなるべく長い時間走るのだが、これは持久力が優れている選手ほど長く続くが、トレーニングしてない人ならあまり持たないはずだ。
仮に10分ともたないようだと単純に基礎体力が不足しているので、まずはジョギングから始めた方がいいだろう。
陸上のトレーニングでいうと「ペース走」や「ビルドアップ走」がそれに当たるので、具体的な練習メニューはそのワードを検索すれば色々出てくるはずだ。
ちなみに結構キツいトレーニングなので運動不足の人はいきなりやらないように。
フレッシュな状態で集中して行う
ペース走などはかなり体力を消耗するというのもあるが、持久力の限界を底上げするものなのでフレッシュな状態で行わないと効率が悪い。
気力と根性で動かない体を鞭打ってもあまり意味がないので注意してほしい。
市民ランナーや他競技の人なら週1か、多くて週2で良いと思う。
ただし、その時は猛烈に集中しよう。
陸上用語でポイント練習というのだが、ここを適当にこなすと他でトレーニングしてきた意味がないので、周りが引くくらいの集中力を見せよう。
特に一人で練習している人はテンションを上げるのが難しいので、集中力を上げるコツが必要かもしれない。
まとめ
たまに検索経由で見ていただけているのでありがたいのだが、ニッチな話題すぎて他の記事と比べるとほとんど見られていないので、今後こういったトピックを扱うかは不明。
個人的には長距離を愛しているし、ランナーも応援しているので、その心だけで許して欲しい。
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