守備指標のUZRとの比較で2016年のゴールデングラブ賞を検証してみる。UZRとは何かも解説。

どうも、ゴトーだ。

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俺は三度の飯より野球が好きでな。
特に2016年シーズンは時間を縫ってプロ野球を見てたし、ブログを始めてからはおそらく野球の記事が一番多かったはずだ。

ところで11月8日にプロ野球のゴールデングラブ賞が発表された。
各ポジションごとに最も守備に長けた選手を選ぶ賞で、選手の守備力を評価する時に「ゴールデングラブ賞◯回受賞」みたいに言われることが多い。

まあ守備は普段なかなか評価されにくいものだし、こういった取り組み自体はプロ野球を面白くさせるものだから良いのだが、いかんせん記者の印象論で選ばれていて実態と乖離しているという意見も少なくない。

そこで今回はデータから見て、ゴールデングラブ賞を受賞した選手が本当に守備でチームに貢献しているのかを調べてみた。

ゴールデングラブ賞について

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先程も簡単にゴールデングラブ賞について説明したが、より詳細に解説していきたい。

ゴールデングラブ賞はセ・リーグ、パ・リーグの各ポジションごとに最も守備力が評価された選手が、合計で18人が選ばれる。
選ぶ人間は「日本の報道機関(新聞社、通信社、放送局)のプロ野球記者のうち、5年以上の取材経験を持つ者」となっている。

これがミソなのだが、実際に野球をやったことがなかったり、専門知識がなくても報道関係者が選ぶので、自分のお気に入り選手だったり、派手なプレーで目を引く選手だったり、今は衰えてそうでもないけど過去に名手だった選手などが選ばれやすい傾向が明確に存在する。

また選出対象の選手の基準は以下のようになっている。

  • チーム試合数の1/2以上同じポジションで守備を行った野手
  • 規定投球回数を投げた投手
  • 年間試合数の1/3以上を登板した選手

つまり一定の試合出場をしていて認知されている選手が対象で、守備が猛烈に上手いけど打撃が下手で、試合には出られないような選手は選ばれない。

UZRとは

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今回はそんなゴールデングラブ賞に疑いの目をかけるという趣旨の記事だが、その根拠として「UZR」という指標を使ってみる。

UZRとは野球を統計学的な見地から分析する”セイバーメトリクス”の一種で、「ある守備位置を守る選手が、同じポジションを守る他の選手の平均と比べてどれだけの失点を防いだか」を示す指標だ。

守備は打率や本塁打などと違って絶対的な数字が残らないため、”ファインプレーが多いから守備が良い”、”エラーが多いから守備が全然だめだ”といった個々の印象論によって語られることが多かったものが、客観的に「どれだけ失点を防いだか」という数字が残るため、分かりやすい指標で、なおかつ算出時に不公平になりにくいということで、現在最も注目されている。

ちなみに正式名称は「アルティメット・ゾーン・レーティング」で、名前が妙にカッコいい。

算出方法を簡単に紹介

算出方法がガバガバだったら意味ないじゃんと思われるかもしれないので、どんな算出になっているかを簡単に説明したい。
ちなみにwikipediaに詳しく乗っているので、長ったらしいけどちゃんと知りたいぜという人はそちらを参照して欲しい。(ここで紹介するのもwikipediaの例に則る)

例として、左中間に強いライナーが飛んできたケースを考える。
「左中間」という位置、そして「強い打球」という速度、「ライナー」という性質の3つの区分から、それが何%でヒットになり、どのポジションが何%で捕球するかを統計的に出す。例えば75%でヒットになり、15%でセンターが、残り10%をレフトがキャッチするものとする

そしてこの時センターがファインプレーでキャッチしたとすると、75%のヒットの確率を防いで、アウト1つを稼いだという評価がなされる。

外野へのヒットは約0.56点の失点を生み、アウト一つは約0.27点の失点を防ぐので、このプレーは合計で0.83点減らすことになる。
この0.83点に75%という確率をかけ合わせると、この一つのプレーは「約0.623点を防いだ」という解釈になる。

逆にアウトにできなかった場合、レフトとセンターがそれぞれ失点の責任を負うことになる。
この場合15%でセンター、10%でレフトが捕球するはずだったために、失点の係数としてはセンターの方がレフトよりも1.5倍だけ大きくなる。

先程計算したようにこの打球は0.83点の価値があるが、センターは15%の責任があるので、0.83に15%をかけ合わせて、「約0.125点の失点を生み出した」と解釈される。

このような計算によって1シーズンの守備による貢献度を算出したのがUZRだ。

なぜUZRが注目されているのか

現代における守備指標としてUZRは最も注目されているが、これは過去にいくつかのセイバーメトリクスがあり、それぞれに対する問題点を解決していく過程で生み出された。
それについて軽く触れていきたい。

RF (アウト寄与率)

セイバーメトリクスの始まりと言われているのが、このRF。
RFとはレンジファクター(Range Factor)の略で、「ある選手が1試合でどれだけアウトに寄与したかどうか」を図るための指標だ。

この指標はかなり単純で、例えば選手Aが1試合平均3つのアウトを取って、選手Bが平均2つのアウトならば、選手Aが1.5倍アウトに寄与しているから守備力に優れているというみなし方をする。

しかしこれが正しい守備の評価にはなりえないというのは明白で、なぜなら以下の要因があると正しく測れないからだ。

  • 投手が三振するほどアウト寄与率が下がる
  • 打者が引っ張ってばかり、流してばかりといった打球要因によってアウト寄与率が変動する

つまりその選手の守備がいかに優れていても、外的要因のほうが大きくなって正しく測定できないことが頻繁にあるのだ。
この問題を解決するためにZRというものが生み出された。

ZR (ゾーンレーティング)

UZRと比較すれば気づくかもしれないが、これはUZRからU(=アルティメット)を抜いたもの。
つまりUZRの前身に当たる指標だ。

方法自体はUZRと似ているのだが、その算出は「ビデオ解析した結果、ある選手が50%以上で処理できる範囲を守備範囲とみなし、その守備範囲でどれだけの確率でアウトにできるか」というものになっている。

ただしこの指標にも以下のような問題点がある。

  • 50%未満の守備範囲外は算出されない
    • つまり時折起こるファインプレーなどは算出されず、難しいボールを追えるような守備範囲が広い選手が正しく評価されない

この問題点をクリアするために生まれたのがUZRで、ZRより凄い、究極的なものだということで、アルティメット・ゾーン・レーティングと名付けられている。

UZRも2001年に考案されたもので今となってはそれほど新しいものではなく、またUZRを改善した指標が出てくるかもしれない。
だたし現時点ではUZRが最も信頼性が高いとされているのは事実ではある。

セ・リーグのゴールデングラブ賞とUZR

まずはセ・リーグのゴールデングラブ賞を受賞した選手のUZRを見ていきたい。

石原慶幸 / 捕手 / リーグ2位

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カープの捕手といえば會澤と石原の二選手が有名だ。
會澤はバッティングに長けているので「打てるキャッチャー」と呼ばれているが、石原はバントを失敗した時に飛んでしまうので「飛ぶキャッチャー」として有名。

上の画像のような面白いバントミスを複数回繰り返している。(カープの鯉のぼりをイメージしているのかもしれない)

そんな石原のUZRは2.4でリーグ2位。ちなみに1位は巨人の小林誠司。

ロペス / 一塁手 / リーグ1位

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マリナーズ時代はイチローの同僚で、高いユンケルを毎日飲んでいたらしい。
2度の30本塁打越えをしているパワーが武器の選手だが、安定したキャッチングも魅力的。

巨人時代以来の2度目のゴールデングラブ賞で、UZRもリーグ1位。

菊池涼介 / 二塁手 / リーグ1位

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まあこれは当然の結果だろう。12球団で2位の浅村栄斗は8.0だが、菊池は17.3とずば抜けている。

野球ファンなら誰もが知っている存在だが、一般的な知名度はさほど高くないので、プロ野球詳しくない人は菊池って誰だよ?ってなるかもしれない。
菊池は身体能力の権化で、現代の忍者。守備に関してはガチで人間離れしてるので一度は見て欲しい。

村田修一 / 三塁手 / 12球団最下位

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村田と言えば「巨体の割に守備は身軽で素晴らしい」というイメージで語られてる。
しかしUZRはぶっちぎりの最下位。ただし三塁手は規程守備イニング到達選手は12球団で5人、セ・リーグは2人しかいない。

UZRはなんと-11.8で、4位の今江が-1.9だから、まさに印象論でゴールデングラブ賞に選ばれていることになる。

坂本勇人 / 遊撃手 / リーグ1位

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12球団では日ハム・中島に次いで2位でセ・リーグではダントツの1位となる15.9を記録。
難しい球も華麗に取る守備はここのところ評価を上げていて、巨人のピンチを度々救ってきた。

今年は打撃開眼して首位打者を獲得しているし、JAPANのショートとして飛躍が期待される。

丸佳浩 / 外野手 / リーグ1位

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アンパンマンのように顔が大きいことで有名で、本人も良い意味でネタにしている。
こんな男だが広島では「キクマルコンビ」として絶大な人気を誇る。

顔と同様に守備範囲も広く、センターとしては12球団トップで、指標もダントツの11.8。

大島洋平 / 外野手 / リーグ2位

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地味で全く知名度はない選手だが、3割を記録するヒッティング、過去には盗塁王やゴールデングラブ賞も獲得しており、走攻守全てが素晴らしい選手。
センターとして丸に次ぐ12球団2位で5.9を記録。

ただし拭えないこの地味さ加減。

鈴木誠也 / 外野手 / リーグ1位

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流行語の候補にも選ばれた「神ってる」男。打撃主要3部門で全て上位につけて今年の広島躍進を最も象徴する男になった。
これまでブレイクが期待されていて、潜在能力は高いのだろうが、どうも一発屋で消えそうな男。

ライトでは12球団1位の10.3を記録。何気に走攻守全てが凄い。

パ・リーグのゴールデングラブ賞とUZR

続いてパ・リーグの受賞選手とUZRを見ていきたい。

大野奨太 / 捕手 / リーグ3位

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日本一に輝いた日ハムのキャプテンで、盗塁阻止率は大体上位に付ける強肩の持ち主。
爽やかなルックスと高いキャプテンシーでJAPANの正捕手候補にも選ばれている。

UZRは1.4とプラスだが、パ・リーグでは4人中3位と下位だった。

中田翔 / 一塁手 / リーグ1位

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風貌的には長打力は凄いけど、守備はめちゃくちゃ、という感じがするが、レフト時代も高いUZRを誇り、ゴールデングラブ賞を受賞したことがある。
現在は一塁なのであまり意味はないが、高校時代は投手で151kmを出したこともある強肩の持ち主。

UZRは12球団トップの10.7を記録。何気に打てて守れる凄い選手。

藤田一也 / 二塁手 / リーグ5位

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いかにも守備の名手と呼ばれているが、実はUZRが低いという代表格の選手。

2013年、2014年とゴールデングラブ賞を受賞しているが、実はUZRは前から高くなかった。
2016年は過去ワーストの数字だったが、2014年以来の受賞となっている。

松田宣浩 / 三塁手 / リーグ1位

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ソフトバンクのキャッチフレーズだった「熱男」を連呼していたら、いつしか自分自身のニックネームになってしまった。
元気あふれるプレーと、空振りのあとのケンケンが魅力的。

守備範囲が広く、かつ強肩でいかにもUZRが高そうで、実際に12球団トップの7.9を記録。
セ・リーグで受賞した村田とは、12球団1位と最下位というサンドイッチになっている。

今宮健太 / 遊撃手 / リーグ3位

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栗山監督をして「大谷よりも今宮のほうが漫画っぽい」と表するほど、凄いファインプレーをするド派手な名手というイメージ。

しかし、UZRはリーグ3位、12球球団でも11人中6位とまさに中間だった。
日ハムの中島が12球団トップで15.9、オリックスの安達も14.8と高い数字を記録していて、かつ名手なのに受賞できないのはちょっとおかしい。

4年連続受賞となっていて、「今宮=ゴールデングラブ賞」というイメージ先行型なのはどうしても否めない。

秋山翔吾 / 外野手 / リーグ2位

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昨シーズン、イチローやマートンの記録を抜いてシーズン最多安打記録を達成した凄い選手だが、自他ともに認める地味な顔のせいか全くスター選手にはなっていない。

それでもプロ入り当時から一貫して、守備力は高く評価されていた。
センターとしてはリーグ2位ながらUZRは-2.0。12球団でも8人中5位と微妙な数字。

陽岱鋼 / 外野手 / 12球団最下位

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イケメンかつ、華やかなプレーで観客を魅了する台湾のスター。

守備範囲が広くビッグプレーが多いので名手のイメージが強いが、実はUZRはダントツでリーグ最下位の-10.0。
過去のデータは悪くはないのだが、今年は際立って数字が悪かった。

糸井嘉男 / 外野手 / リーグ1位

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天然が多いプロ野球界の中でも、元祖にして頂点の天然キャラ。
「キャプテンの重みは?」→「素材が軽いです」という斜め上の回答をウケ狙いではなくしてしまう。

今年はFA宣言して、阪神の移籍が決定している。
UZRは-7.1ながらリーグ1位。12球団で見ると8人中6位。(セ・リーグが1位から5位を占めている)

ゴールデングラブ賞は7度目の受賞だが、実は過去のデータを見てもほとんど下位につけている。

ちなみにUZR1位は…

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UZRで12球団トップなのは日ハムのイケメン外野手、西川遥輝。

球界屈指のスピードスターとして、1塁到達速度でも12球団トップを誇る。
さらに今年は打撃開眼して、打率もリーグ2位につけたり、日本シリーズでも満塁サヨナラホームランを打つなど、すっかりリーグを代表する外野手になった。

華やかなキャラクターとプレーが売りなのでゴールデングラブ賞に選ばれても良いところだが、残念ながら受賞はならず。

調査した感想

村田修一や陽岱鋼、今宮健太あたりは「絶対これ印象論で選んでるやろ」という感じだったが、正直思ったほど酷くはなかった。

記者投票という仕組み上、どうしても印象論がつきまとうのは仕方ないのだろうが、ゴールデングラブ賞は守備の名手であることを最も象徴する賞なので、もう少し実態に基づいて選んで欲しいという気もする。

ただUZRが日本で注目され始めたのはここ最近のことで、近いうちにゴールデングラブ賞にもセイバーメトリクスを取り入れるべきだ、という流れがくるかもしれない。

球団別受賞者数

セ・リーグ

  • 広島…4人 (石原、菊池、丸、鈴木)
  • 巨人…3人 (菅野、村田、坂本)
  • DeNA…1人 (ロペス)
  • 阪神…0人
  • ヤクルト…0人
  • 中日…1人 (大島洋平)

パ・リーグ

  • 日ハム…3人 (大野、陽岱鋼、中田)
  • ソフトバンク…2人 (松田、今宮)
  • ロッテ…1人 (涌井)
  • 西武…1人 (秋山)
  • 楽天…1人 (藤田)
  • オリックス…1人 (糸井)

4 件のコメント

  • 今年はセリーグは妥当でしたね。
    村田は対抗馬がいないから消去法でしょうか?
    サード以外は納得結果だったようにおもいます。

  • UZRとゴールデングラブは同じくらいの信頼性だろw
    同じ人でも、100守備機会全部真正面に飛んできた場合と、3歩横に打球が飛んできた場合で、数値が変わるんだからな(笑)

  • セイバーは数多くの選手すべてを見てられないメジャーでなら意味もあるが、
    育成含めて80程度の日本では二軍首脳陣がきちんと見ていれば必要無い。
    そもそも素人が特定の指標で評価するための物じゃない。

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